服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第900回
ショッピングの達人になる法

買物するのはお好きですか。
今は便利な時代で、
たいていのものは居ながらにして買うことが出来ます。
でも、おしゃれに関しては
時にはブティックに出向くことも必要なのです。

「おしゃれは五感でせよ」と言って良いでしょう。
眼で見るだけでなく、
たとえば革の匂い、金具が締まる時の音、
シルクの手ざわりなど、
それらすべての総合美が
おしゃれの本体であるからです。

またそれとは別に、
ブティックに出掛けてゆく時の
気の張りということも見逃してはなりません。
いつもいつもTシャツばかりでは、
心の艶がくもってくるからです。
「よし、今日は買物に出掛けよう」というのも、
心を磨くためのひとつのきっかけなのですから。

ところで上手な買物の方法はあるのでしょうか。
私はある、と思います。
それは結局のところ、好かれる客になれ、
ということに尽きます。
どんな場合にでも言えることですが、
「好かれる人」と「嫌われる人」がいます。
で、たいていの場合、
「好かれる人」が得をすることが多いのです。

店員の側に立って「良い客」とは、
あまり偉ぶらない人です。
「ちょっとシャツを見せてもらいたいんだが」
などと声を掛けて店に入ってくるような客は、
大いに歓迎されます。
少しでも佳いものを、丁寧に売ろうと思います。

たとえば畳んであるシャツを
拡げて見たい場合にも、
店員に言えば良いのです。
「ちょっとこれを見せて欲しんだが」。
たったこの一言で
「好かれる客」の候補となります。
客としてもそのほうが手間が省けますし、
店員としても気持の良いことなのです。
そしていよいよ決定しようという時に、
はじめて自分の指先で感触の良し悪しをたしかめる。
もしもそれが分るなら、ですが。
とくに純白は汚れやすいので、注意が肝心。

こんなふうに
ちょっとした心づかいをするだけで、
「好かれる客」になれるのです。
そうなれば必ず佳いものを
気持よく買物ができるはずです。


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