服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第898回
美しい1分間の余韻

タクシーを利用することがありますか。
私はどちらかといえば
歩くのが好きなほうですが、
それでも時と場合によっては、
タクシーのお世話になることがあります。

ひとりでタクシーに乗って、
A地点からB地点へ行く。
こんな時にはほとんど何も考えていない。
頭はカラッポで、頭脳の深呼吸には
ちょうど良いのかも知れません。
時折、ふっと名案(?)が浮かぶことがあります。
でも、誰か同乗者がある場合には、
それなりに気をつかうものです。
たとえば座席の位置。
これは簡単なようで難しい。
それというのも上席をすすめても
本当は乗り降りに楽な位置を好む人が
少なくないからです。
タイト・スカートなどを身につけた女性なども
その例に似ています。
こんな時には瞬時に、全体の空気を察知して、
まず自分が奥の席に座るべきでしょう。

これとは別に、
同乗者を途中まで送ることがあります。
自分はA地点からB地点まで行くのだけれど、
X嬢をC地点で降ろしてあげるという場合。
これは海外のタクシー事情で学んだことですが、
X嬢が車を降りたからといって、
すぐにタクシーを走らせてはいけないのです。
自宅のドアの内側に入ったことを
確認してから車を出す。
むろんこれは万一の安全を考えてのマナーなのです。

今の日本でこのマナーが
必要であるか否かは議論のあるところでしょう。
が、私としては安全性のみならず、
ある種の心の余韻としても
美しい心づかいだと思います。
ということはこれは何も女性に限らないのです。
男同士もあれば、
友人を送って行くこともあるでしょう。
そんな時にも、
彼の姿が家のなかに消えるのを待って、
車を走らせる。
それはせいぜい長くても1分間位のことでしょう。
この1分の余韻は大きな効果を含んでいます。

もちろんそれは
タクシーに限ったことではありません。
自分が運転する車や、
あるいは運転手が運転する車についても
同じことでしょう。
この1分間はとても美しい1分間だと思います。


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