第790回
わが理想の靴に愛情を
体重の半分の重さは何だと思いますか。
それは片方の靴にかかる負担です。
たとえば体重が70キロであったとすれば、
35キロづつの重さがそれぞれの靴の上に
かかっていることになります。
しかも靴への負担はなにも
体重だけではありません、
仮に一日に10時間靴を履くとして、
その間には想像以上の汗をかいているはずです。
当然、靴の内部はかなりの高温になることもあるでしょう。―
たったこれだけのことを考えても、
靴がなんとタフであるかに気づくでしょう。
誰しも自分の履く靴については、
デザインやシルエットが気になるはず。
でもその前に丈夫であることも
大切な靴の条件なのです。
ことに革靴のドレス・シューズは
本来一生物であるべきで、
途中で型が崩れてしまうようでは
悔(くや)しいではありませんか。
靴を選ぶときの私の第一条件は、頑丈さ。
本当に一生物になってくれるだろうか、と。
もしそうであるなら、
多少値段が張っても仕方がありません。
かつての英国人は
靴の重さで選ぶようなことさえありました。
一般的に言って
重い靴ほど頑丈であると考えたからです。
さて、そのようなわけで
もう一度オクスフォード・シューズを見直したいのです。
オクスフォード・シューズとは、
紐結びの短靴のことです。
靴紐の結び加減によって
足へのフィット感を調整できる点でも
優れていると思います。
ごく単純に考えて、鳩目の穴が多いほど
フィット感が高められるのかも知れません。
このような条件を重ねてゆくと、
私の理想の靴は、
軽登山靴に似てくるでしょう。
ただし底はやはり革底でありたい。
これなら頑丈で、足にフィットして、
一生物になってくれるはずです。
もちろんそのためには常に愛情をもって手入れもし、
木型で型崩れを防ぎ、
上手に育ててやらなければなりません。
結局は靴もまた、
自分で愛情を感じるものを選べ、
ということになるのですが。
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