第685回
清く、正しく、美しい言葉のために
最近なにか気になる言葉がありますか。
むかし私は「アタッシュ・ケース」、
「ジャガード」が気になっていました。
でも、今はこんなことを言う人はいなくなりました。
誰もが正しく“アタッシェ・ケース”、
“ジャカード”と言っていますよね。
1804年にフランス人のジャカールJacquardが
紋織機を発明したので、その名前があるわけです。
しかし実際には「ジャ」と来ると、
そのまま続けて濁音の「ガ」の発音のほうが
楽という事情があるのでしょう。
けれども話し言葉はさておき、
書き言葉としてはやはり
“ジャカード”とするべきでしょう。
さて、今気になる言葉は「フラスコ」。
携帯用酒瓶のことをたいてい「フラスコ」と呼ぶのです。
私は「フラスコ」と聞くと、
すぐに理科の実験で使ったことのある、
ガラスの器のことが頭に浮かびます。
どうも携帯用酒瓶とはうまくつながってくれないのです。
私は勝手に“フラスク”flaskだと思っています。
さて、そこで手もとにある辞書で
“フラスク”を調べてみると、
「フラスコのこと」とあります。
そして正しく「携帯用酒瓶」を指すためには
“ヒップ・フラスク”と言うべきであるらしいのです。
主として尻ポケットに入れておくことが多いからでしょう。
ではなぜ「フラスコ」=“フラスク”なのか。
これはポルトガル語の
“フラスコ”frascoから来ているのです。
さらにその語源はラテン語。
日本には江戸期から
ポルトガル語の”フラスコ”が使われていた。
たいへん古い歴史があります。
一方“フラスク”は同じ語源から来た英語なのです。
つまりポルトガル風であるか、
英語風であるかという違いなのでしょう。
それでも私は“ヒップ・フラスク”と
言いたいほうかも知れません。
ヒップ・フラスクに何を入れるか。
ウイスキイやコニャックも良いのですが、
ラムという手もあります。
水割りラムで酔った状態を
“グロッギー”groggyというのです。
「グロッキー」は日本語。
本当に言葉というものは面白いものですね。
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