服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第671回
秋の酒、粋の酒

ちろりを使ったことがありますか。
ちろり。
漢字で書くと難しいのですが、銚釐。
言うまでもなく酒の燗をつけるための道具です。
たいていは錫(すず)や銅、
高級品になると銀製があります。
注ぎ口と取手があって、筒状、
下から上にゆくにしたがって広くなっています。
この中に酒を入れ、
湯煎(ゆせん)して温めるわけです。

それにしても「ちろり」は面白い言葉ですね。
一説によると、
地爐裏(ちろり)から来たものではないかと
考えられています。
むかしはたいていの家で、
爐(ろ)が切ってあって、
この爐の灰の中に酒の入った器を埋めて、
ゆっくりと温めた。
だから「ちろり」の言葉生まれたのだそうです。
銚(ちょう)には「酒器」
釐(り)には「筋道を通す」の意味があります。

俗に「燗は人肌」と申しますが、
それほどにむかしの人たちは
燗の頃合いを大切に考えたのでしょう。
土間に打水をし、その打水の乾き具合で、
その日に最適の温度を感知したと言われています。
また酒の燗が出来るようになれば、
人間として一人前だと考えられた時代もあったようです。

酒は冷(ひや)に限る、
という人も少なくないでしょう。
でも、時と場合によっては
燗をしたほうがはるかに美味い酒もあるのです。
私の好みを言わせて頂けるなら、
秋にぬる燗というのはおしゃれなものです。
で、こればかりは人まかせにしないで、自分でやる。
その時になにか使いやすいちろりがひとつ欲しいなあ、
と考えています。
そうなるとですね、理想を言えば火鉢があって、
炭火が熾(おこ)っているなんて風でありたいのですが。
一杯の酒にも粋と風情はあるものです。

けれども理想は理想として、
時によってはごく簡単に
電子レンジを使うこともあるでしょう。
が、これがなかなか難しい。
でも、ひとつ上手い方法があるのです。
紙コップをふたつ用意して、
その中にアルミフォイルを一枚挟んでおく。
この三重の紙コップを銚子の上にかぶせてから、
電子レンジに。
すると対流が起って
温度差のない燗ができるのです。


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