服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第570回
ビューティフル・ウォーターを作ろう

椿の花は好きですか。
日頃、不粋な私がどうして椿を思い出したのか。
椿の花ではなく、葉で感動したからです。
椿の葉。

とある喫茶店に入って珈琲を飲もうとした。
店の看板に大きく「珈琲」と書いてあるからです。
席に着くと、手づくりの小さなおしぼりが、
椿の葉に乗せられて、来た。
椿の葉は水をふくんで美しく、
「ああ、いいなあ」と思ったのです。
おしぼりはふつう手を拭くものですが、
これは指先を清めるのにふさわしい大きさ。
だからこそ椿の葉の上に乗るのでしょう。
タオル地ではなく、
白い木綿地を重ねて色糸で端を縫ってある。
それが飾りにもなっている。
よく見ると、コースターを同じ手法で、
手で縫ってあるのです。

テーブルが3つだけで、
窓の外には美しい川が流れています。
長八美術館で知られる伊豆の松崎町にある
「侘助」という喫茶店でのことです。
侘助(わびすけ)、そうか、それで椿の葉なのか。
もし松崎町を訪ねることがあったら、
一度のぞいてみて下さい。

この喫茶店で
もうひとつ印象にのこったのは、水。
おしぼりと一緒に水が来る。
この水が美味しい。
珈琲を飲むつもりで入って、
水ばかり何度もおかわりをしてしまったほどです。
ひと言で説明するなら、
「フルーツ・ウォーター」ということになるでしょうか。
水差しのなかに薄切りにした果物を入れてあるからです。
よくレモンの薄切りを浮かべることはありますが、
これはりんごやハーブなどを入れてあります。
この日のハーブはアップル・ミントで、
ほのかにりんごの香りのする水なのです。

冷たい水が入っているので
水差しの表面は水滴でくもっている。
そのなかにりんごの薄切りや
アップル・ミントのハーブが入っている。
ただそれを眺めているだけでも美しい。
もちろん飲んで美味しい。
家に帰ったら、私もこのビューティフル・ウォーターを
作ってみようと思いました。
でも、本当に大切なことは、
「いいなあ」と思うだけでなく、
実際に自分でやってみることなのですが。


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