第517回
辞書と遊ぼう
「あか」という言葉を知っていますか。
漢字ですと「淦」と書くのだそうです。
近くにある小型の辞書で引いてみると、無い。
「閼伽」はあるけれど、「淦」は出ていない。
こうなると少し大きい辞書で調べることになります。
私がまず開くのは、『日本語大辞典』(講談社)。
これはかなり詳しいし、
眺めるだけでも楽しい辞書です。
図版がカラーで入っていたりする。
えーと、「あか」ですね。
さすがに出ています。
「船底にたまった水」とあります。
英語なら“ビルジ・ウォーター”とも出ています。
先にお断りしておきますが、
私の持っている辞書はすべて旧版。
新しい版とは少し違っているかも知れませんので、念の為。
なるほど船底にたまった水のことを
「淦(あか)」というのか。
でも、もう少し詳しく知りたい。
そこで『大辞林』(小学館)を開く。
同じように「船底にたまった水」とあって
「仏語の『閼伽』から出た言葉という」と添えられています。
ほほう、閼伽(あか)から淦(あか)か。
そういえば水であることに変りはない。
『言泉』(小学館)もほぼ同様の説明。
なにしろ私、暇と時間だけはありますから、
今度は『日本百科大事典』(三省堂)。
これは驚くほど詳しい。
ただし明治41年の出版なのですが。
開いてみると、10行にわたって解説があります。
明治の言葉ですから、難しい。
従ってここでは全部は引用しません。
でも、「あるいはアイヌ語のワッカ(水)の転語ならん」
と書いてあります。
そうか、アイヌ語で「水」のことを
「ワッカ」と言ったのか。
さて、同じ辞典の隣には
「閼伽」の説明があって、
ラテン語のアクア(水)が語源であろう、
と説明してあります。
たとえば“アクアラング”のアクア、
“アクアマリン”のアクアですね。
―なんて風に次から次へと
辞書を開いて遊ぶのは面白いものです。
そしてこれは実に良い運動になります。
辞書は重い。
これを棚から下してまた戻して。
頭の体操ならぬ、本当の体操にかなり近いのです。
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