服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第506回
大正3年の万年筆

ときには万年筆を使うこともありますか。
今はほとんどすべてコンピューターの時代。
万年筆は遠くになりにけり、ですね。
もっともなかには私のような変り者あって、
万年筆愛好家。
いや、正直に告白するなら、
なくてはならぬ商売道具。
今もって原稿用紙に万年筆というのが、
私のスタイルなのです。

だからというのではありませんが、
コンピューターも万年筆もどちらも使うのが、
理想だと思うのです。
右手と左手があるように、
右脳と左脳があるように、
ハイ・テクとロウ・テクがある。
ハイ・テクが完全であるわけでも、
ロウ・テクが不完全であるわけでもありません。
一長一短。それぞれに良い所と悪い所がある。
もし、そうであるなら、
両者の良い所をミックスするのが、
一番理想的なのではないでしょうか。
ハイ・テク×ロウ・テク=パーフェクト。
たとえばワープロの文章の後に、
追伸と著名を手書きの万年筆でしたためてある、
なんていうのは素敵なことではありませんか。

万年筆は私にとっての実用品である、
と言おうとして話が長くなってしまいました。
でも、実用品ばかりを使っていると、
時には趣味としての贅沢品も欲しくなってしまうものです。
「ロメオ」という名の万年筆を知っていますか。
今、私はこれが欲しくてたまらないのです。

銀座の伊東屋
なんでも今年で100周年であるとか。
そこで100周年記念の万年筆を売出した。
それが「ロメオ」。
大正3年、伊東屋はオリジナルの万年筆を発売した。
それが「ロメオ」だったのです。
つまり今回の「ロメオ」は
その復刻版ということになります。
見るからにクラシックな、
懐かしいスタイルに仕上っています。
200本のみの限定販売で、1本10万円。

伊東屋の初代はもともと洋服屋の出身であったそうで、
私はなんとなく親近感を抱いているところがあるのです。
しかし、10万円の万年筆、
今、買うべきかどうか、
しばし腕組みをしているところなのです。


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