第429回
富豪のネクタイを考えてみる
結び目のないネクタイがあるのを知っていますか。
より正確にいえば、
結び目の見えない結び方なのですが。
俗に「オナシス・ノット」の名前があります。
ギリシアの船舶王、オナシス(1906〜1975年)が
好んだ結び方であるところから
その名前で呼ばれるのです。
オナシスは常にネクタイを締めるときはこのやり方で、
しかも常に黒無地のネクタイであった。
つまり、それはもうひとつの顔にさえなっていたのです。
オナシス・ノットの結び方は簡単です。
一度、ごく普通に、プレーン・ノット(1重結び)で結ぶ。
次に大剣の端を、結び目の後から前に通す。
すると結び目が隠されて、
あたかも1本の帯が
シャツの襟から下がっているような印象を与えるわけです。
オナシスはこの結び方をするために、
わずかに長く仕立てた、
特別注文のネクタイを使ったとのことです。
いかにも船舶王にふさわしいことですが、
我われ庶民としては
普通のタイでももちろんその結び方は可能です。念のため。
オナシスは毎年、48本の黒無地ネクタイを注文した。
24本は秋冬用、24本は春夏用。
パリの「サルカ」あたりで作ったのでしょうか。
さあ、そこまでは知りません。
ただしサルカで特別注文のタイを作ることはできます。
ロンドンなら「ホリデイ&ブラウン」など、
今でも注文を受けるネクタイ屋はないわけでもありません。
もし、心と経済に余裕があるなら、
自分だけのオリジナル・ネクタイを作るのも
ひとつの方法でしょう。
ただし、ネクタイ地は専用のものを使うほうが得策でしょう。
専門用語で“ウェイティング”というのですが、
適度な重みが必要なので、
これが足りないと
軽薄な結び目になってしまうからです。
逆にネクタイ生地を
ジャケットの裏地に使ったりすることは可能。
あるいはネクタイ地でチョッキを仕立てたり。
日本でなら、銀座の「ブリオーニ」(TEL:5524-2630)で
オーダーのネクタイを受けています。
1本3万3千円から。
未来の富豪の方はぜひどうぞ。
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