服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第362回
「蝶」をひとつ買いましょう

旅の必需品は何ですか。
小型カメラ、サングラス、携帯用酒壜、常備薬・・・。
こんなちょっとしたところにも、
人それぞれの好みがあらわれて面白いものです。
むかし、女優のドリス・デイは
いつも30分で旅支度が出来たそうです。
常に必需品を用意した鞄があって、
その時どきの洋服をいれるだけで、
すぐに旅立てるようにしていたから。

私の場合は、スカーフでしょうか。
中判のシルクのスカーフを2、3枚。
これは畳んで邪魔にならず、
鞄に入れて重くもなければ、
壊れるようなこともありません。
しかも拡げれば、
着こなしの強力な武器となってくれます。
1枚のスェーターを2通りにも
3通りにも着ることが出来ます。
単におしゃれということだけでなく、
実際に保温などにも役立ってくれるでしょう。

シャツやスェーター、ヴェストなどの数は
なるべく数を絞って、
むしろスカーフを2、3枚入れておくことが、
鞄を小さくし、おしゃれを鮮やかにするコツなのです。

旅の秘密兵器をもうひとつだけ紹介しましょう。
それは蝶ネクタイ。
蝶ネクタイなんか締めたことがないよ、
とおっしゃれなかれ。
たとえブレザーにスポーツ・シャツしかなくても、
そこに蝶ネクタイを結べば、
一流レストランで楽しみは倍増するはずです。
ふつうのネクタイを上手に鞄に収納するのは
意外に難しいものですが、
蝶ネクタイはまったく苦になりません。
ワイシャツの襟の凹みに入れておけるほどです。
あるいは上着の胸ポケットにも入れておけるでしょう。
事実、それはポケッチーフとしても使えます。
これほど小さくて、
これほど大きな働きをしてくれる小道具は
ちょっと他にはないでしょう。

蝶ネクタイはなにも上着だけでなく、
チョッキやスェーター、
カーディガンなどに合わせることも出来ます。
旅にはぜひ蝶ネクタイを。
もちろん旅先の洋品店で現地調達する方法もあるでしょう。
もしフランス語圏なら、
“パピヨン・シル・ヴプレ”と言えば、通じるはずです。
フランスでも「蝶を下さい」と言うのです。


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2003年9月29日(月)

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