服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第293回
大好物を食べる時のように

大好物は何ですか。
これは難しい質問ですね。
好きなものがあまりにたくさんあって、
ひとつに絞りきれない。
私もまったく同じことです。
でも、あえてひとつだけと問われるなら、鰻丼。
これならもう毎日でも大丈夫です。
高級店の鰻重も悪くないのでしょうが、
私は気安い店の鰻丼が好きです。
どうせなら、大きいやつを
心ゆくまで食べたいほうなのです。

鰻好きにとって、
鰻丼か鰻重かは永遠のテーマでしょう。
けれども歴史的には鰻丼のほうが
はるかに古いのです。
鰻を丼にして食べる発想は、
江戸期文化年間(1804〜1818年)に
生れたとのことですから、古い。
考案したのは、大久保伊麻助(いますけ)
という人物であったそうです。
この人、大の鰻好きで、毎日鰻を食べる。
芝居の合間にも鰻を食べる。
店から芝居小屋に運ばれると、鰻が冷える。
そこで伊麻助は大きな丼をあつらえて、
このなかに熱い飯とを一緒に入れて運ばせた。
たぶんこれが鰻丼のはじまりでしょう。

ところでここでちょっと気になるのは、
毎日のように鰻を食べた伊麻助が、
いったいいくつまで生きたのか。
天保5年(1834年)2月14日に亡くなった時、
78才であったそうです。
江戸の平均年齢からすれば、
これはかなりの永生きということになります。
ますます鰻が食べたくなるではありませんか。

この間、久々に「尾花」
(TEL:3801-4670)へ行きました。
古くからある鰻の専門店です。
この店の名物は、大串。
大きな大きな鰻。
2人や3人ではとても食べきれません。
数人で分けて食べてちょうど良いのではないでしょうか。
とにかく驚くほどの大きさなのですが、
焼き方も見事なら、味もまた見事なのです。
大串を食べた後ではさすがの私も、
2、3日は鰻は結構という気持になります。
ただし、大串は前もって予約をしておく必要があります。

どんなものを食べる時でも、
大好物に向うように、大いなる期待をもって、
心から楽しみながら食べることが、
結局は1番だと思います。


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2003年7月13日(日)

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