服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第159回
スーツは目立つな、着こなしで目立て

フレッシュマンにとっての
理想のビジネス・スーツが何であるか、
考えてみたことがありますか。

でも、その前にひとつだけ言い訳してをしておきます。
どうも私の話には「英国では」というのが多すぎる。
たしかにこれは素直に認めざるを得ないでしょう。
けれども19世紀の国際社会では、
英国の紳士服の影響が絶大だったからなのです。

ひとつだけ例をあげます。
タブ・カラーというシャツの襟型がありますね。
1920年代のはじめ、英国皇太子が訪米した。
この時、皇太子がタブ・カラーのシャツを着ていた。
以降、アメリカでタブ・カラーが流行することになります。
大切なことは、それ以前にはアメリカには
タブ・カラーはまったく存在していなかったのです。
20世紀のはじめであっても、
いかに英国の影響が大きかったことが分るでしょう。
ちょうど今、アメリカ経済が世界に少なからず
影響を及ぼしているのを少し似ているのかも知れません。

さて、言い訳はこのくらいにしておきましょう。
今、ダーク・スーツのすすめについてお話をしています。
では、いっそ黒のビジネス・スーツはどうなのか。
もちろん現在ようやく黒がビジネス・スーツとしても
認められるようになってきました。
でも、フレッシュマンが最初に選ぶビジネス・スーツとしては
おすすめできません。

フレッシュマンにとっての理想のビジネス・スーツは、
目立たないことなのです。
今のオフィスのなかでは黒のビジネス・スーツは
むしろ目立ってしまうでしょう。
スーツ自体は目立たない。
けれどもその着こなしは爽やかで、
どこかシャープであるというのが理想なのです。

しかしそれでも流行のブラック・スーツが着たいなあ、
と思うかも知れません。
ひとつの妥協案として、オフ・ブラックはどうでしょう。
黒に近いけれど黒でない色。
とにかく目立たないことが最高なのです。


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2003年3月1日(土)

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