第74回
礼装用ズボンに隠された小さな秘密
礼装用ズボンになぜ側章が付くのか知っていますか。
もちろんタキシード下の
ドレス・トラウザーズにもこれが配されます。
これは細い、黒いサテン地の飾りであり、
ふつう“サイド・ブレイディング”と呼ばれます。
礼装用の飾り、と言ってしまえばそれまでですが、
本来はパンツの脇縫目を隠すのが目的だったのです。
19世紀の上流階級にあっては、
パンツの脇縫目は下着的である、
人目にさらすものではない、
と考えられていたからです。
ドレス・シャツの胸元にスタッド
(飾りボタン)をあしらうのも、
貝ボタンは「下着的」として避けたからなのです。
19世紀に完成された、
今日の礼装にはすべて「下着的」なものが
注意深く除かれています。
いや、それこそが何よりの特徴であるかも知れません。
俗に燕尾服の側章は二本、
タキシードには一本が原則と言われています。
でもこれは単に本数の問題ではないのです。
燕尾服の場合にはより大胆に縫目を隠し、
タキシード(ディナー・ジャケット)の場合には
さりげなく隠す、という違いがあるのです。
燕尾服に幅広い側章を一本あしらっても
まったく問題はありません。
ところでドレス・トラウザーズには無いものがひとつあります。
それはベルト・ループ。
なぜなら礼装用ズボンは
サスペンダーで穿くのが決まりだからです。
逆に必ず付いているものは、
腰裏のサスペンダー・ボタンです。
このボタンにサスペンダーの端のボタン穴を留めるのです。
さて、もうひとつの礼装用ズボンの特徴は、
上着と共地にはしない、ということです。
19世紀の習慣として、上着は上着地、
ズボンはズボン地で作ったから。
もちろん今は省略して、
タキシードと同じ生地でズボンも仕立てることがありますが、
本来はあえて別布から選ぶべきなのです。
その意味では、深い紺の上着に、
黒無地のパンツは粋なことなのです。
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