服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第7回
靴磨きも奥が深いぞ

前回、靴の磨き方について書いたのですが、
ひけつだけ言い忘れていることがありました。

靴の表面にワックスを「の」の字を描きながら伸ばしてゆく。
この時、水を一滴だけ加えるのがコツなのです。
要するに靴の表面に、より薄いワックスの膜を張れば良い。
そのためには可能な限り、
少量のワックスをより広い範囲に伸ばしていくことが
大切なのですから。

この時、しゃれ者のなかには水の代わりに
少量のアルコールを利用することがあります。
ウィスキィとかコニャックとか。
つまり水よりもさらに揮発性が高いというのでしょう。
チャーチの靴を磨く時には「オールド・パァ」で、
エルメスの靴を磨く時には、「マーテル」だよ。
と言った男があります。
これはまあ、半ば冗談だと聞き流してよいでしょう。

でも、しゃれ者が靴底を磨くというのは本当の話です。
もっと正確にいえば、土踏まずの部分。
靴を裏返してみると、踵と靴底の間に
「土踏まず」がありますね。
ここをよく磨いて光らせておくのは、
しゃれ者のたしなみということになっています。
また、コバを磨くことは実際に理に叶ったことでもあるのです。
ここはロウ引きした麻糸で縫ってあるのですが、
ここをさらにワックスで保護することは、
靴全体の永保ちをも左右することなのですから。

時々場合によっては靴の色とは
異なる靴墨の色で磨く、ということもあります。
たとえば茶色の靴を黒の靴墨で磨く。
するとまさしく古色蒼然とした、
アンティーク・レザーの味わいが出るのです。
この異色づかいで有名なのはパリの「ベルルッティ」で、
もはや芸術の域にまで達しています。
ただし自分で勝手にやるのは禁物。
必ず専門家とよく相談してください。

靴の新品とは実は半完成品であって、磨いては履き
履いては磨くことによって、本当の完成品となる。
磨きの世界も奥が深いですね。


←前回記事へ 2002年9月30日(月) 次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ