死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第57回
サイドビジネスでお金を儲けようと考えないほうがいい

たしかに、サイドビジネスをすれば、
給料以外のお金ははいります。
でも、それが将来に結びつくかどうかは別問題です。
サイドビジネスでお金が儲かるようになると、
職場の周囲の人とのバランスがくずれてきて、
会社にいたたまれなくなるんですね。

たとえば、サラリーマンが小説を書いたりすると、
まず知名度が高くなる。収入もふえる。
会社に電話がジャンジャンかかってくる。
ほかの人は、何となくおもしろくないんです。

あいつは、何か書いているようだけれど、
会社の仕事をおっぽり出して、
小説を書いてるんじゃないか。
こう思われるようになると、もう、その会社にはいられません。

源氏鶏太さんは住友系の会社に勤めていましたが、
『英語屋さん」で直木賞をもらうと、
中間小説雑誌からつぎつぎと注文をもらうようになりました。

むかしは、芥川賞や直木賞をもらっても、
いまと違って急に有名になったりはしなかったんですが、
源氏さんの場合は、”サラリーマン作家”ということで、
新聞や週刊誌にいろいろとりあげられたんです。

源氏さんは、昼間は会社の仕事をちゃんとして、
原稿は家へ帰ってから書いたんですが、
注文がふえてくると、どうしても睡眠不足になる。
仕事をしていてもついウトウトするし、
疲れているから、通勤の行き帰りに
電車になんか乗っていられない。
往復、タクシーに乗るんです。

タクシー代だけで月に三万円にもなって、
月給より高かったんです。
同僚は、なんだあいつと思うようになるし、
結局、周囲とのバランスがくずれて、
やめざるをえなくなったわけです。

サイドビジネスの小説が直木賞をもらったりするのは
特殊なケースでしょうが、
サイドビジネスによってバランスがくずれたら、
もうダメです。二足のわらじははけくなる。
かといって、バランスがくずれないような仕事というのは、
だいたいろくなものでないことが多い。

私だってうちの社員が、
夜キャバレーでアルバイトしているとわかったら、
やめてもらおうかと思います。

サイドビジネスは、
絶対やらないほうがいいと言っているわけではありません。
いまの会社に一生勤める気がなくてつぎの道を考えている人は、
いっぱいいるわけですから、
そこにつながることならいいと思うんです。

たとえば、建築設計会社に勤める人が、
夜、自分の家でも個人的に設計の仕事をする。
その経験を活かして独立するのはいいんじゃないですか。

あるいは、現在の仕事とぜんぜん違っていても、
将来、それが本職になる可能性があれば、
やってみるのもいいと思います。
ただ、いずれの場合も、
サイドビジネスでお金を儲けようなどとは考えないことです。

アブハチとらずになりかねないし、
もともとそういうお金は、
会社の同僚とお酒を飲むときについおごってしまったりして、
自然に消えていくものなんです。





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2013年5月28日(火)

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