第28回
賢者は中金持ちをめざす
ひと口にお金を貯めるといっても、
ただ漫然とお金を貯めようと
思っているだけでは貯まらないものです。
何のためにお金を貯めるかという目的意識がないと、
欲望を排除して、
このお金を残しておこうという気持ちになれません。
目的は時代によって違うし、
また、その人の生まれ育った環境によっても違ってきます。
たとえば、親から譲られた立派な家があれば、
家を買うために貯蓄をする必要はないわけです。
逆に、親から家をもらえるあてのない人は、
自分で家を買うしかないわけですから、
ある時期から、家を買うための頭金をつくるんだと、
お金を貯め始めることになります。
そのほか、老後に備える人もいるし、
子どもの将来の学費のためとか、
あるいは、サラリーマンをやめて独立するときの
開業資金をつくるとか、
人それぞれの目標があると思います。
中には「私の人生唯一の楽しみは旅行することだから」
と海外旅行のために、しじゅう貯金をする人もいるそうですが、
これは、まあ小づかいの延長と考えてよいでしょう。
貯まったらすぐ使ってしまうし、
いまどき短期間の海外旅行くらいなら、
わざわざ苦労してお金を貯めなくても行けます。
目的を決めたら、つぎは、そのためにはいくら必要か、
具体的な額を決めることです。
このときだいじなのは、最初から、高望みをしないことです。
自分の収入を度外視して、
たとえば
「家を買う頭金が五百万円必要だから、五百万円を目標に」
では、途中で挫折するおそれもあるんです。
私はつねづね
「愚者は大富豪を夢見、賢者は中金持ちをめざす」
と言っています。
これは、実際問題として、
「実現不可能な目標をかかげてもしようがない」
という意味です。
むかし、阪急の創始者・小林一三さんが
当時の秘書だった清水雅さんを連れてアメリカに行ったとき、
ニューヨークでメーシー百貨店の前を通ったら、
車からパッと降りて、こう言ったそうです。
「こういうのがほんとうの経営者なんだ。
この建物を見ると、第一期工事、第二期工事、
第三期工事とだんだん広げていったのがわかる。
誰だって、最初から大きなことはできないんだ」
これを聞いて清水さんは、
「なんだ、社長は自分のことを言ってる」と思って、
おかしくなったそうです。
阪急百貨店も、はじめは小さくて、
隣りへ、隣りへと広げていったんですね。
ダイエーにしてもイトーヨーカ堂にしても、
最初は何十坪という規模でしかなかった。
それをすこしずつ大きくしていったわけでしょう。
私も、人から何か相談を受けたとき、
できそうもないことは言わないんです。
自分が、もしその人の立場にいたらできるだろうと思う範囲内で、
その人がやるべきことをやっていないときは文句を言うけれども、
高邁な理想を実現しろなどということは言いません。
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