死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第5回
頭とチエを使えば、ケチケチしなくてもお金は貯まる

この傾向は、一家の主人として
経済面や収入面を担当している中年以上の男性だけでなく、
婦人層と若年層にも急速に拡がった。

ひところは、雑誌の特集記事が、
ほとんど「金銭」で埋め尽くされた感じがあり、
お陰で私は、婦人雑誌や
若い人たちの読む雑誌にまでつぎつぎと引っ張りだされ、
やたらと新聞に顔写真が載るようになった。

何でも、私の容貌は
「金儲けのセンセイ」にふさわしいそうで、
本屋さんの店頭を見ると、
平積みになった書籍棚の常連になってしまった観がある。

なかには『女はお金で勝負する』とか
『女の財布』『努力しないで金持ちになる法』
などというタイトルの本もあるように、
いまや私はオンナ、コドモまで相手にするようになってしまった。

親しかった作家の檀一雄さんがよく冗談半分に、
「小説家もオンナ、コドモをダマすようにならないと
一人前になれない」と言っていたが、
まさかこういう形で広く国民に支持層を持つようになるとは、
想像してもみなかったことである。

こういう社会環境になったので、
一からお金を貯める人たちのために、
そのABCについて教訓を垂れてほしいと話を持ち込まれたのが、
この本の発端である。

これも檀一雄さんのロ癖だったが、
「いちばん売れる文学は、
何だかだと言っても結局は説教文学だよ。
吉川英治をみなさい」だそうである。

クドクドと説教するのは私にいちばん似合わないことであるが、
お金を貯めるためには
克己心の持ち合わせがないとうまくいかない。

「お金の貯まる人はこういうところが違うんだ」
と力説しているうちに、
気がついてみたらいつのまにか説教口調になってしまっている。

せめてもの救いは、
「爪に火をともすような」
ケチケチをすすめていないことであろうか。
豊かな社会になれば、「食うものも食わずに」というよりは、
「頭を使って」「チエを絞って」
お金持ちになるのが似合うようになる。

というわけで、
「さあ、 いまからでも遅くはない」
「この本に書いてあることをすぐにでも実行に移して」
「大金持ちの前にまず中金持ちの道を急いでください」
とおすすめするしだいである。





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2013年4月6日(土)

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