“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第705回
虎屋壷中庵の料理は続く

岩本さんの次の料理は、椀。
椀を顔の近くに持ってきて蓋をとると、
出汁の香りに鼻腔がくすぐられる。
牡丹鱧のような綺麗な白身が黒塗りの椀のなかで花開いている。
鱧ではないと女将から聞いたが、
このときは兄の心配でうわの空。
食材の名前は失念してしまった。
しかし、素晴らしい香味であったことだけは覚えている。

そうしているうちに、家内から第二報が入る。
兄はゴルフ場でプレー中に倒れ、
一時は心肺停止状態だったのが、
近くの茶屋にAEDが設置してあって、
キャディさんがその講習を受けていたので、すぐに蘇生した。
そのまま救急車でゴルフ場の近くの
多摩の病院のICUで意識不明とのこと。
早速帰りの便を高松空港から徳島空港に変更し、
早められないか、丸尾社長と村さんに相談して、
問い合わせてもらう。
昼すぎの便は無理とうことで、午後遅くの便に乗ることになった。
3時頃に出発すれば間に合うので、
岩本さんの料理を全て食べられることになった。

次の料理はアマゴの刺身。
これは、村さんも、丸尾社長も初めてという。
川魚の臭みもなく、深い甘みがある一品。
刺身でこれだけ旨みが乗っているものは初めての体験。
そして、いよいよメインのアマゴ饅頭。
これは、アマゴの身を口から掻き出して、
それをミンチして味付けし、
再度二尾分の身をアマゴの皮のなかに戻して焼いたもの。
皮を破らずに身を取り出すだけでも高度な技術が必要で、
出来る調理人は希少だ。
このアマゴ饅頭がこの日最大のハイライト。
大皿で運ばれてきたときに、部屋中に香ばしさが漂う。
そして、口に入れればその香りに甘い味わいが加算して、
旨みの極地を感じる。
またたくうちに、一人二尾のアマゴ饅頭を平らげてしまった。

そして、蕗の玉子巻きに煮茄子が添えられたもの。
さらに、烏賊の天然山葵和え。
この天然山葵は岩本さんが山奥から採取してきたものとのこと。
どちらも優しい味わいで、お腹はいっぱいになっているのに、
身体が楽になってくる。
最後が炊き込みご飯。
この食材も失念。
そして最後に岩本さんの話を少し聴いて、空港に急ぐ。
どうにか予定の便に間に合い、
夜遅くに病院にかけつけることができた。

結局兄は、その後の検査で、
動脈硬化で血管が細くなっていたことが判明。
そして、血管のバイパス手術によって助かった。
心臓停止の原因は、入院後のCTでもMRIでも分からず、
カテーテルを血管に入れた検査で分かったこと。
日常の検査で分からないので怖いが、
AEDの近くで倒れた兄は、まさに九死に一生。幸運だった。

次回は、このような心配なしに、
虎屋壷中庵で再度岩本さんの料理を心置きなく食べたい。


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2007年6月1日(金)

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