|  第559回同じ市場で魚の品質が違う
 馬頭の花見をする前の日まで、札幌でちょうど学会があった。帰りがけに、せっかくなので小樽の三角市場へ寄った。
 長い付き合いのなじみの仲買は、ここの奥の方に位置する。
 小さい店で、ぱっとみたときの品数の豊富さは感じないが、
 奥の冷蔵庫にも極上の魚が入っている。
 今回取り寄せが極銀のタグがついている鮭も、
 そこから取り出して見せてくれた。
 鮭の顔つきは精悍で、鱗が綺麗にそろっていて、銀色に輝いている。
 小樽でもめったに上がらないオスの鮭とのことで、
 食べるのがそのときから愉しみになった。
 鮭はやはりオスのほうが旨いという。
 タラバもそうだが、卵を腹にもつメスは、
 どうしてもそちらに栄養をとられてしまう。
 久しぶりの訪問なので、ゆっくりとご主人と話をして、どうして、こちらの仕入れる魚介類が美味しいか
 という話題になった。
 すると、ご主人が言うには、
 同じ小樽にあがる魚でも、
 漁場が少しずれただけで質が全然違う。
 いい漁師は、どこで獲ればいいかをよく知っている、とのこと。
 そして、同じ魚でも漁法と、その後の管理で質が違うと、
 鳴門の村広一さんと同じことを言われた。
 そして、そのような極上の魚介類をセリで見分けるには、やはり魚の目利きが必要。
 いい品物は、すぐに値があがって、
 安いものとの差は3倍以上になるという。
 なるほど、市場で同じ魚が並んでいても、
 その質は天と地の差があるわけだ。
 それなので、あそこの仲買よりも、
 こちらの仲買のほうが安いなどと選択するのは愚の骨頂。
 極上品はどうしても値が張る。
 では、素人が地方の市場で魚を買うときには、どうやって仲買の店を選択すればいいのだろうか。
 この問に対する明快な答えはない。
 ある程度目利きができれば、
 どこで買えばよいかという見当がつくが、
 そこまで分かる素人はあまりいないだろう。
 やはり、なんども出向いて、魚に対する話を聴き、
 その魚を味わい、目利きを覚えていくしかないだろう。
 そんな、いきさつがあって、
 馬頭で準備した北海道の幸は、実に愉しみにしていたのだ。
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