第517回
ニース風ブイヤベースの至福
妻の誕生日祝いを一月遅れで行った。
どの店で祝うか、色々悩んだが、
妻をまだ連れて行っていない店ということで
六本木「トレフミヤモト」を選択した。
「トレフミヤモト」は
夏の間はニース風ブイヤベースのコースを
特別に出しているというので、それが愉しみだった。
ブイヤベースというとマルセイユの地元料理として有名。
魚のごった煮だが、
大抵は魚介の旨みがスープに溶け出していって、
スープは旨くてもダシガラとなった魚介は旨くない。
ニース風のものは、違った調理方法で魚介も旨いという。
妻と予約の時刻の午後7時ぴったりに訪問。
厨房の入り口の脇の席に通された。
まずは、グラスシャンパンで乾杯。
妻は、アルコールは一切駄目なので、
九州の軟水のミネラルウォーターを注文。
ブイヤベースのコースに
スペシャリテのスープ入りコロッケを追加してお願いした。
最初に提供されたのは、宮本さん得意の10種の前菜。
そして、スペシャリテとして、
フォワグラとトリュフのスープが入っているコロッケ。
熱いスープは旨みが豊かで妻も大喜び。
そして、その後、いよいよブイヤベースと続く。
本日シェフが築地で仕入れてきたと言って、
生の魚介を見せてくれる。
オマールが立派。
松葉の鱸、ホタテ、ハマグリ、タラバなど、いずれも美味しそう。
まずは、ブイヤベースのスープが、
深底の蓋付きスープカップで供される。
具は入っておらず、濃い茶色のスープからは
オマールの殻の香りが漂う。
オマールの味が核となっていて、
サフラン、他の魚介の香味と溶け合って、バランスのいい味わい。
スプーンから口に流しこむたびに、幸せが増えてくる。
ワインはバンドールのロゼを勧められて、それを注文。
しっかりとした味わいのロゼだった。
そして、いよいよメインの魚介が提供される。
これが、ニース風では、さきほどのスープで魚介を煮るという。
それで、旨さが逃げずに魚介に返される。
この手法を聴いて、以前danchu誌の築地特集号で
仕入れと料理を依頼されたときに、
天然車海老で使ったソースアメリケーヌを用いて
海老を煮たことを思い出す。
海老の殻で出汁をとり、それで海老の身を煮て、
味が逃げないように工夫した。
これは、もともとは魚を湯引きするときに、ただの湯ではなく、
その魚のアラでとった出汁で湯引きするという、
大阪の料理界の重鎮上野修三さんの話から発想したものだった。
同じ発想が日仏で用いられていることが面白い。
そんなニース風ブイヤベースのメインの魚介は
本来の旨みに、他の魚の旨みが重なり、
幸せが倍加される旨さだった。
ロゼワインが確かによくあう。
その後がまた感動ものリゾット。
ブイヤベースのスープで米を煮たという。
発想は鍋のあとのオジヤに似ている。
魚介類の旨みが米に浸みこんでいて、
それが、硬めの米の食感に合わさり、
最後を飾るにふさわしい食事。
相当腹いっぱいになりながら、全部食べきれた。
そして、デセールでにくい演出があった。
私のほうが先にでてきて、妻のはあと回しで変だと思っていたら、
ローソク付き。
さらに、オルゴールを脇に置いて、
Happy Birthday to Youのメロディが流れる。
妻にとって最高の誕生日になったようだ。
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