第470回
京料理と大阪の料理の違い
名古屋「京加茂」の土方さんと、
豊中「桜会」の満田さんを同行して、徳島の割烹を訪問したが、
二人の料理の考え方の違いが聴けてとても面白かった。
京加茂の土方さんは、
名古屋での修行経験のなかで、
丸冶系の親方がやっている割烹で、
京料理の考え方を徹底的に叩き込まれた。
ここに、今日の自分があると言っている。
丸冶というのは、いまではあまり聞かないが、
かっては、吉兆とならぶ京料理の名店だったそうだ。
吉兆が芸者なども揃えて総合的にお客を喜ばせていたのに対して、
丸冶は料理だけで勝負をしていたという。
一方、桜会の満田さんは静岡の出身で、
辻調理学校を卒業して、大阪の料理を勉強し、
小さい料理店から始めて、
いまでは意欲的な割烹料理屋をやっている。
神亀酒造の小川原専務との出会いによって、
食材への意識などが大幅に変わった。
いまでは、能勢の脱サラの農業従事者と懇意になり、
無農薬有機栽培の野菜を仕入れている。
その農家は桜会だけのために野菜を作っている。
満田さんは、和食のなかで泡を使ったり、
野菜を生で使うなど、斬新なアイディアを取り入れている。
京料理の調理人は、伝統を守り、
従来和食で扱ってきた食材だけを、
オーソドックスな調理法で提供する
という考えを持っている人が多い。
これに対して、大阪の調理人は新しいものが好きで、
革新的な技法を取り入れるのに積極的ということをよく聞く。
今回の徳島の割烹で最初に提供された胡麻豆腐が、
とても粘りが強くて、その食感のよさにびっくりして、
土方さんと満田さんに作り方のコツを聴いてみた。
満田さんは、まぜる回数をとにかく多くするという。
そして、空気を入れるようにすると面白い
ということも言っていた。
これに対して、土方さんは
京料理では空気を入れたら親方からは怒られる。
胡麻豆腐はかき混ぜるときの温度と時間がポイントで、
93℃、95℃、98℃と温度を変えると全く違う味と触感になるという。
これは、求める味の違いがあって、どちらも正しいのであろう。
胡麻豆腐に関しては、
そのうち自分でも作ってみようと思っているが、
今回は料理人の考え方の違いが、
同じ和食の分野でもとても大きいことが分かり、
貴重な体験をした。
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