|  第459回豚の美味しさのヒミツ
 養豚場の奥のほうに、見慣れない豚がいた。それまでは白っぽい豚ばかりであったのが、茶色をしている。
 鹿熊さんの説明では種類が違うということだった。
 日本で通常食べる豚は、ほとんどがLWDという種類になっている。
 Lはランドレース種、
 Wは大ヨークシャー種、
 そして、Dはデュロック種。
 つまり、雌のランドレースに
 雄の大ヨークシャーを掛け合わせて生まれた子供がLW。
 その雌とデュロックの雄を掛け合わせるとLWDとなる。
 この雄豚と雌豚を掛け合わすのは人工授精。雄から精子を採取するための仕掛けも見せてもらった。
 長い棒が水平に設置されていて布団が巻きつけてある。
 体操の鞍馬の台をちょっと長くしたようなイメージだ。
 これを雌豚にみたてて、雄は発情する。
 そして、人間が手でペニスを触ってやると、
 こする暇もなく、すぐに射精するので、
 それを手の平で受けて、容器に入れる。
 これを週に一度ずつ行い、
 精子をさらに液体で薄めて雌にカテーテルで注入するという。
 つまり鹿熊種豚場の雄豚は、
 一生雌を知らずに鹿熊さんの手だけが愉しみに生きているわけだ。
 LWは子育てが上手く繁殖が安定している。これに対してデュロックは味が秀逸だが、繁殖能力が高くない。
 それで、その両者を掛け合わせて
 美味しい豚を安定して供給することで、経営が成り立つ。
 日本のブランド豚も、
 鹿児島の黒豚と中国種の混入されたものを除いて、
 ほとんどLWDらしい。
 これに対して、「井のなか」に出荷しているのは上質なLW。
 LWの雌は母豚として使うが、
 雄が50%の確率で生まれる。
 それを即去勢して6ヶ月育てたものだ。
 鹿熊さんの話では、好みの問題はあるが、豚は雌よりも去勢した雄のほうが美味しいという話だった。
 これは、牛にもおそらく成り立つのではという。
 松阪牛では処女の雌しかそう呼ばないと
 ブランドの定義がされているが、
 その雄の去勢の肉はきっと旨いはずだという。
 大田原牛が去勢の雄を使用している理由も
 そういうところにあるのかも知れない。
 そして、ついに先日送っていただいた「くれないの豚」の素性が明らかにされた。
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