|  第378回残念なこと
 同じ日にとても残念なニュースが二つ入ってきた。一つは、拙書「世界一旨い日本酒」でも紹介した
 幡ヶ谷の居酒屋「たまははき」のご主人の
 藤村秀雄さんが1月24日に亡くなられたことを
 奥様から手紙で知らされたこと。
 「たまははき」は新潟の銘酒「鶴の友」だけを置いていて、季節に応じた居酒屋定番の酒肴を出す名店として知られていた。
 ご主人の藤村秀雄さんは、
 地図の出版社に勤めていたが、
 日本酒好きが高じて居酒屋を始めた。
 お酒だけに限らずに諸事に見識があり、
 人柄が温厚でとてもいい方だった。
 下喉頭癌を患っていて昨年末にはもう店には立てないと
 「たまははき」を閉めたところだった。
 実は、「世界一旨い日本酒」での「たまははき」の取材は、日赤広尾病院に藤村さんが入院中に
 お見舞いがてら行った経緯がある。
 いまにして思えば、そのときは藤村さんも
 それほど重い病だとは思っていなかったようだ。
 惜しい方を亡くしてしまった。
 もう一つの残念なことは、これまた「世界一旨い日本酒」で紹介した
 「群馬泉」の島岡酒造の木造家屋が火事で焼けてしまったことだ。
 古い建屋の補修工事で工事用照明が加熱して
 発火したのではないかと推定されているようで、
 それでは、蔵にとってみれば不可抗力だ。
 島岡酒造は、群馬では珍しくどっしりとした酒である「群馬泉」を全量山廃仕込で造っている真面目で小さい蔵だ。
 群馬泉は燗あがりがたまらなくいい。
 副社長の島岡芳和さんは、
 よく私のライブをわざわざ銀座に見にきてくれたり、
 ワイン会に誘ってくれたりして、親しくつきあっている。
 幸い、怪我もなく、被害も麹室が消失し、薮田式圧搾機が使えなくなった程度らしいが、
 それにしても、今年の造りには大きい影響を及ぼすことになる。
 はやく立ち直って、いい酒を造り続けてほしいと望んでいる。 |