|  第362回熟成して旨くなる日本酒が少ないワケ
 最近、どんな銘柄が熟成して旨くなるかと聴かれることが多い。拙書「世界一旨い日本酒」では取り上げた銘柄は約30種。
 それも、どの酒もあまり
 そこらの酒販店で気軽に入手できるものではない。
 地酒主体の酒販店で品揃えが多いところでさえ、
 私の掲げた銘柄は全部はもちろん、
 ひとつもそろわないところが多いだろう。
 何故かというと、熟成に向く本物の造りの日本酒の割合が少ないからだ。
 これまで、相当な銘柄を利いてきた経験から言うと、
 おそらく20銘柄に一つあるかないかではないかと感じている。
 全国では1500くらいの酒蔵があり、
 このなかには稼動していないところもある。
 それ故、感覚的な話になるが、この1500蔵の5%と計算して、
 熟成して旨くなる酒は100蔵もないことになる。
 どうしてこんなことになっているかというと、現在の日本酒の造りが
 新酒で旨いことを目指している蔵がほとんどだからだ。
 つまり、我々日本人受けするのは、
 ボージョレーヌーボーのように、
 できたてが旨い日本酒ということになる。
 このように、新酒で旨みをよく感じるようにするには、アルコールの完全発酵まで持っていかずに、
 手前で止めたほうがいい。
 酵母によって発酵するもとの糖分が残って甘みが加わるからだ。
 完全発酵を目指して、しっかりと造った純米酒は、
 できたては旨みが少なく、荒々しさを感じるものだ。
 ところが、半年も経つとアルコールと水の分子が融合し、
 化学変化も加わり、荒々しさは少なくなって、
 しかも、旨みが加わってくる。
 これが味ノリであり、秋口に出す酒を「冷おろし」と呼び、
 その旨さを秋晴れなどと称する。
 熟成して旨くなる酒の具体的な銘柄は拙書にも書いてあるが、最近、研究室のホームページにも記載しているので、
 参照していただければ幸いだ。
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