“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第315回
日本酒は個性で売れる

最近の日本酒業界の色々な動向を見ると、
せっかくの日本酒の個性を殺すような動きも少なくない。
まずは、大手酒造メーカーの酒は
ある程度以上の価格帯のものは、そこそこの旨さを持っている。
しかし、大量に安定した品質を出すために、
それらはブレンドされていて、面白みが少ない。
毎年同じ味のものが提供されることを彼らは目標として、
その努力をしているからだ。

一方、小さい蔵元は個性豊かなところが多かったが、
全国新酒鑑評会をもとにした過去の吟醸酒ブーム以来、
似たような酒質の酒が多くなってきている。
さらに、地酒を扱う酒販店が小さな蔵に対して、
売れる酒のスペックを指導することも多くなり、
その酒屋で買う酒は共通の香味を持っていることがよく見られる。

また、最近は大手の得意だったブレンドを酒販店が提案し、
数蔵の日本酒を独自にブレンドして、
オリジナルラベルで売ったりということさえ
行われるようになった。

これまでにも、このコラムで述べてきたように、
これからの地酒が生き残り、
日本酒が復活する一番のポイントは、
いい造りの個性豊かな地酒を製造し、
それを消費者に知らせていくことだ。
地酒の面白さは個性にあるといってもいい。
蔵の違いだけでなく、
その蔵の色々な造りの仕様の違いも面白い。
原料米の違い、酵母の違い、
酒母造りの(もと)の違いなどを感じて、
食事との相性を見ると日本酒の奥の深さを知ることができる。

また、同じ蔵の同じスペックの酒でも、
造ったヴィンテージの違い、
同じ年でも仕込みのタイミングの違いが色々とある。
その年の米の出来が違ったり、
仕込んだときの蔵の空気が違ったりと、
地酒は様々な顔を見せる。

このような違いを愉しむことを広く知らせることが、
日本酒を日本人の食卓に復活させるための、有効な対策だ。
ところが、どうも個性を抑えることを
日本酒業界が自らやっているように、思えてならない。


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2005年11月11日(金)

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