|  第235回燗酒とカクテルの似た関係
 先日、代々木上原のショットバーの『カエサリオン』を訪問した。お客が一人だけだったので、マスターの田中さんと懇談。
 『世界一旨い日本酒』をその前に進呈していたので、
 必然的にその話題になった。
 田中さんが、本を読んで感じたのは、
 ショットバーは温度についてあまり気を使っていない
 という点だという。
 カクテルを作るときに、冷やしたものどおしをシェイクしたり、ステアしたりしてもよくは混ざらないそうだ。
 常温の液体どおしを混ぜて、
 それを最後に氷で冷やすという過程が、一番うまく混ざるという。
 シェイカーの中には氷を入れているので、
 混ぜるというプロセスと冷やすというプロセスは
 同時併行で行われるが、最初から冷やしてあると駄目という。
 ショットバーで大型冷蔵保管庫を置いてある店がよくあるが、大概の場合はシャンパン、ワイン以外は
 生の食材の保管に使うくらいで、あまり活躍していないそうだ。
 最後に冷やす氷がたくさんあれば、それで十分であり、
 大型冷蔵保管庫の設備費を他へ回したほうがいいことに
 気が付かないバーが多いのだそうだ。
 では、冷えた液体が何故混ざりにくいかというと、液体の分子の活動が低下し、
 分子間の引力のほうが強くなって、
 容易には同じ液体の分子が離れ離れにならないからだ。
 例えば水は4℃くらいが、分子間の引力が最大で、
 水の分子はクラスター状態になっている。
 ただし、このクラスターも安定ではなく、
 僅かな時間の間に形成されたり、壊れたりしている。
 温めると分子活動が盛んになり、
 異なる液体どおしが混ざり易くなる。
 出汁をとる場合も同じだ。たとえば、昆布と鰹出汁に醤油と味醂を加えて、
 八方出汁をとる場合など、
 冷たい状態で混ぜてもうまくはできない。
 鍋で温めて、それぞれの液体の分子がからみあって、
 旨い八方出汁になる。
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