第222回
松阪の至福のホルモン

津市の三重大学で午前中に仕事があったので、
その後、拙書「世界一旨い日本酒」でも紹介した、
伊賀市の森喜酒造場と
大阪の能勢の秋鹿酒造を表敬訪問することにしていた。
森喜酒造場の最寄り駅はJR関西本線の「佐那具」だが、
夕方の訪問時刻まで結構時間のゆとりがあった。
そこで、昼食をどこで何を食べるかということが
最重要課題となる。
伊勢志摩グランドホテルで鮑を堪能ということも考えたが、
それだとちょっと時間が足りなさそう。
近場の松阪に行ってみることにした。

松阪では選択肢は二つ。
一つは和田金で絶品のすき焼き。
ここは、高級松阪牛の代名詞のような店で、
昼でも１万円は越すと思われる。
金が惜しいわけではなかったが、
和田金は以前訪問したことがあったので、
今回はホルモン焼きを食べに行くことにした。
松坂市で一番のホルモン焼き屋といえば、
なんと言っても『一升びん』がイチオシという噂を耳にしていた。
松阪には『一升びん』が５店舗ある。
そこで、本店を選択。
松阪郵便局の向かいで、松阪駅からは徒歩10分程度だ。

店構えは普通の食堂。
店内もこぎれいにはしているが、
特に凝ったしつらえにはなっていない。
店のコンセプトが肉の質だけにこだわり、
大量に上質の肉を仕入れて、
少しでも安く提供するというものなのだ。
各テーブルに炭焼きのコンロが置いてある。

ホルモン、黒ミノ、ハツ、椎茸、生モツ、キムチと注文。
最初は生ビールとあわせ、その後日本酒の燗に変えた。
この生モツが絶品の味。ごま油で食べる。
臭み、雑味が全く無く、ぷりっとした食感のなかから、
旨みが溢れてくる。
焼物もいずれも旨い。
東京の虎の穴を越えている。
黒ミノというのが、上ミノの固めの部位ということで、
初めての体験だったが、これまた美味。
しこしこした食感で、噛むほどに味わいがでてくる。

帰りがけにご主人に
食材の質の高さにびっくりした旨の話をしたところ、
食肉市場で最高のもの、
特に雌牛のものを使っているとのことだった。
これで5000円でお釣りが来たのには、感動した。
『一升びん』恐るべし。