|  第153回純米無濾過生原酒は一時の流行か?
 その3 アルコール添加の功罪
 日本酒にアルコール添加が大々的に行われるようになったのは、昭和14年の満州での実験に起源を発する。
 日本軍の士気高揚のために
 日本酒の増産が必要となっていたが、
 戦争前の米不足でアルコールで増量する研究が行われ、
 満州の千福酒造が受けて完成させた。
 これが、昭和16酒造年度には
 満州での日本酒へのアルコール添加が許可され、
 日本本土にすぐに伝わり、
 昭和23年の大腐造をきっかけに、
 国が率先して各地の蔵にアルコール添加を呼びかけるようになる。
 つまり、70年ちょっと前までは、日本酒といえば米と米麹と水だけで造られていた。
 江戸時代に柱焼酎といって、
 日本酒の醪桶に焼酎を添加して、腐造をふせぎ、
 酒をしゃきっとさせる技法が試みられてはいたが、
 だいたいは純米造りであった。
 これが、昭和24年にはブドウ糖、水飴、コハク酸、乳酸、グルタミン酸ソーダなどを
 30%のアルコール液に溶かした調味液を作り、
 それを上槽前に醪に加えた酒造りがされるようになった。
 純米の造りの三倍に量を増やせるので、三増酒と呼ぶ。
 この頃は戦時中、戦後の緊急避難として、
 アルコール添加、調味液添加が奨励されたが、
 その後の昭和、平成の豊かな時代になっても、
 まだ廃止はされていない。
 国税庁が発表している平成15醸造年度の清酒製造に関わるデータを見てみると、
 清酒全体の製造量は約61万キロリッター、
 そのうち米だけで造る「純米酒」と「純米吟醸酒」、
 「純米大吟醸酒」は合計で
 約7万5千キロリッターしか造られていない。
 逆に、アルコール添加で大きく増量した「普通酒」は
 32万キロリッター、
 さらに調味液による「三増酒」は
 10万キロリッターも造られている。
 つまり、純米造りは全体の一割強にすぎず、
 三増酒よりも少ない。
 しかし、純米酒ならすべていいかというと、そうでもない。同じ蔵のアルコール添加の日本酒のほうが美味しい場合も多い。
 これは、純米酒はアルコール添加酒に比べて
 造りが難しいからだ。
 醪状態で最後のほうにアルコール添加を行うと、
 すっきりとした軽やかな酒質にすることができる。
 純米酒はとかく重たい酒になりやすい。
 それは、造りの原点である、
 原料米処理、麹造り、酒母造りがうまく行っていない場合に多い。
 つまり、きちっと造った純米酒ならアルコール添加酒よりも旨みを出し、
 かつ切れもある酒質が可能なのだが、
 蔵の造りの技術が不足していたり、
 造る手間を省いたりすると、
 かえって重たい、もったりした酒になるわけだ。
 純米酒がいいか、アルコール添加酒がいいかという議論は、長いこと日本酒好きの間ばかり、業界でも議論されている。
 埼玉県の燗にして旨い酒「神亀」は昭和62酒造年度に
 全て純米造りとなった。
 以来、神亀酒造の小川原専務は純米だけを造り続けている。
 一方、静岡の銘酒「開運」を作っている
 土井酒造場の土井社長は
 アルコール添加は昔からの柱焼酎の歴史にうらうちされていて、
 酒を軽やかにするには必要な技法ととらえている。
 私はどちらかというと、しっかりと造った純米酒のほうが好きだが、
 それは、熟成したときにアルコール添加酒は
 どうしても添加したアルコール分子が
 浮いている感じがすることが大きい。
 純米酒でないと酒ではないと極論はしないが、熟成した旨みを楽しむには、純米無濾過生原酒が面白い。
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