第84回
『太極導引』鍛錬の「年齢」
皆さんが運動法や健康法を選ぼうとする時に
まず気にされるのは、
自分の年齢に合うかどうかということではないでしょうか。
それは多分、体力や記憶力
それから体調と病状などといったことを
考慮しているのだろうと思います。
『太極導引』鍛錬は、太極拳の形を中心として行いますので、
以前のコラムで色々紹介したように
心拍と呼吸にきつくならないことと
運動リズムがゆっくりであることから
お年寄りの運動法(或いは健康法)だと思っている方が
多いと思います。
今の中国でも太極拳練習者の中に占める中高年の割合は高く、
朝の公園や緑地で太極拳の形を練習する人々の中にも
若者の姿は少ないです。
確かに『太極導引』鍛錬は
ゆっくりと行う運動ですので、心肺の働きは激しくなりません。
体力が低下していく中高年の方々や
病状にもよりますが患者さんにとっても適した健康法です。
又、多様な動きを覚えながら練習を行うことは
脳の活性化の促進につながり、
下肢運動が豊富で筋力づくりや関節の老化防止にもなります。
もう一つは全身を動かすことで血行がよくなり、
胃腸の消化排便に対する改善効果もあるというように、
中高年の健康維持と老化改善には様々な良い効果があります。
そして中高年の健康に効用があるということは
もちろん若い人の健康にも効果があるということです。
特に現代の都会に暮らしていて、
デスクワークを中心とした仕事に就いて働いている若い世代は、
人為的に肢体運動が単調になり、体力も落ちています。
中高年の身体の状態に似た傾向にあるので、
若い頃から『太極導引』の鍛錬を行うことは価値のあることです。
『太極導引』の鍛錬は決して激しくはない動きですが、
2、30分ぐらいのゆっくりとした練習をすると
筋肉痛も出るし汗もかきます。
新陳代謝の促進により
生活習慣病である糖尿病や高血圧症などの予防にもなります。
又、精神を落ち着かせながら
呼吸のリズムに合わせて体を動かすことは、
脳及び運動神経、自律神経の機能をよく鍛え、
全身的な協調性を整えます。
デスクワークによる運動不足が原因で起こる
腰痛や肩こりなどの改善もできます。
そして現代人に最も有益的なところは
ストレスの改善と調整する点にあります。
『太極導引』の鍛錬は
「放松」(リラックスすること)の訓練をとても重視するものです。
ゆったりと練習をしながら心身のリラックスを作るだけではなく、
放松を意念しながら鍛錬を行っていくことでもあります。
つまり『太極導引』鍛錬は
心身のリラックス状態を主動的にととのえ、
良い循環を作る方法です。
朝の鍛錬を行えば1日の良い精神状態を準備することになります。
夜の鍛錬を行えば1日の心身疲労を解きほぐして
調整することになります。
健康づくりという意味では、
老化現象や病的症状が出て来た後から行うのでは遅いとも言えます。
漢方医学理論の名言でいう
「不治已病治未病」、いわゆる養生趣旨です。
養生は長い年月をかけて行う継続的な行動だからです。
『太極導引』鍛錬という方法こそ、漢方理論に基づいた
年齢を問わず誰にでもできるものなのです。
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