第72回
バランスをよくする方法 ― 「放松 その2」

『太極導引』鍛錬では入門段階、高級(上級)段階を問わず、
また1回の練習においても、
終始「放松」の練習は基本的な内容として常に行うべきです。
そして肉体上の「放松」を行うことよりも、
精神上の「放松」を行うことは、
ずっと難しいと実感することでしょう。
なぜならば人間には欲があり、
欲によって感情の変動を引き起こすことがあるからです。

欲があることは人間の本能であり、
誰もが例外なく持っているものだろうと思います。
しかし欲というものは、満たすことができてもできなくても
何かしら精神に影響し、
精神状態の起伏を引き起こしてしまうものです。
喜んだり、悲しくなったり、恐れたり、怒ったりなど
このような精神状態は、
激しくなった場合には臓腑の働きを妨げてしまいます。
臓腑の働きが異常になると、
生命活力のパワーである「気」と
生命の必須的な栄養物質である「血」の生成と流れに波及し、
その結果、何らかの病症が現れてきます。
これは「七情致病」(精神情緒による発病)という
漢方医学の見方です。

『太極導引』で練習する「放松」とは、
欲を抑えることではなく、
欲を起こさないように精神安定をコントロールすることです。
つまり、受動的な行動ではなく主動的、
主体的に意識して「放松」を行うことです。

『太極導引』の「放松」練習方法とは
まず、姿勢の「中正」とからだの重心の安定を
稽古中は終始一貫して確認したり直したりする調整を行います。
次に、動作が流れるように動くことに専念して、
良くなったか悪くなったか、
できそうかできなさそうかといったことを
一切考えず、評価せず、望まず
といった意識状態で稽古を行います。
それから、色々な動作を動かす時には
筋肉が張らないように、関節がこわばらないように意識して、
さらに力をもっともっと小さくするように試み続けます。

日常生活や仕事や勉強をする時でも
『太極導引』鍛錬の時のように
姿勢と行う内容に集中して、
結果を考えず、評価せず、望まずのままの精神状態で
主動的、積極的にストレスの改善を行いましょう。


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