第70回
姿勢の「中正」について ― 続き

『太極導引』の鍛錬による姿勢を整える内容について
さらにお話しを続けていきます。

「中正」を求める姿勢の調整は、
『太極導引』では動きながら行うことになります。
即ち動的に姿勢を整えることになるわけですが、
これだけでは難しく思えるかもしれません。
そこで、同じような意味の「中正」の性質をもつ漢字の形を例に、
さらに説明をしてみましょう。

漢字を書くことはローマ字を書くことに比べたら、
随分と複雑な作業といえそうです。
方形である漢字は大体、
左右上下に分かれる各パーツを組み立ててつくられていますので、
字画を覚えることも難しいですが、
字体のバランスを習うことはもっと難しいです。

上下の組み立てで構成されている漢字の重心は真ん中に置きます。
しかし左右の組み立てで構成されている漢字の場合は、
重心を真ん中には置かず、
あるものは左側に偏り、またあるものは右側に偏っています。
それでも字体としてのバランスは崩れた状態にはなっていません。
重心が片方に偏っていても形の全体像は安定し、
バランスも整っています。

『太極導引』の鍛錬もこのような漢字の形と同じように
姿勢が安定することとバランスが良くなることを求めます。

また、『太極導引』の鍛錬では、
様々な姿勢を組み立てた動きを行います。
動きを流す時に姿勢の「中正」をコントロールすることは
習字の時に筆をコントロールすることと同じです。

習字の場合、筆の「中正」とは真っ直ぐに立つ形を保つことです。
しかしこれは、一筆一筆を書く間
ずっと筆を真っ直ぐにしなければならないということではなく、
書く内容によっては筆を斜めにすることがあっても、
つぎは真っ直ぐ立つ形に回復するように書き戻すということです。
つまり、「中正」の真っ直ぐのような形を準則として
筆を動かして字を書くのです。

『太極導引』の鍛錬でも
姿勢を常に真っ直ぐにして行うことではなく、
「中正」を意識して動作を行うということです。


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