中国人と日本人 邱永漢

「違いの分かる人」へのヒントがあります

第76回
ふだんの日はショー・ルーム、バーゲン・セールが本番 その3

利益の追求は自由主義圏では誰はばからぬ立派な経済行為だから、
海外に出ると、中国人はその本性を遺憾なく発揮する。
あの時私の知り合いで、
ロサンゼルスで小さな銀行を経営している中国人を訪ねたら、
新しくつくって間もないモントレ・ポークの支店に
私を案内してくれた。

ロスの郊外にできた新興チャイナタウンで、
台湾から移民した人々が店を並べているので、
俗に「台北城」と呼ばれている。

開店して二年足らずなのに預金がたくさん集まり、
早くも採算に乗るようになっているという。

「この間も、隣りの町にある銀行の白人の支店長が見学にみえて、
どうしておたくはそんなに早く黒字になるのですかと
不思議がるから、おたくは白人相手の商売でしょう、
白人は百ドル稼いで百二十ドル使う人種だから、
預金をする余裕なんてないでしょう。
その点、うちは大部分がチャイニーズのお客ですから、
客層が違いますよ。
中国人は百ドル稼いだら、五十ドルは預金をします。
預金もよくするけれど、借りたお金もきちんきちんと返します。
そういうことを説明してあげたら、
いや、まいったと頭を抱えて帰って行きましたよ」。

以上の説明でもわかるように、
どこに行っても、中国人は最低生活に甘んじ、
節約に節約を重ねて貯蓄をする。

そのお金を中国大陸では、
一般の庶民や小店主にかしあたえずに、
あまり効率的な経営をしているとは言えない
国営事業に資金提供している。
もしこれが流れを変えて、民営事業に貸し出されたり、
あるいは、住宅ローンにまわされて
有効需要として生産を刺戟するようになったら、
たいへんな威力を発揮するようになるに違いない。

第三に、中国人はお金の使い方について
ことのほか、きびしい。
貧乏であれば、もともと収入が少ないから
使えるお金の余裕はないが、
少ないなりにお金を効果的に使おうと必死の努力をする。

この人たちの頭の中では貯蓄が常に消費に優先しているから、
節約できそうなお金は一切使う気はないし、
どうしても使わなければならない場合でも、
安くすませる方法はないものかと知恵を搾る。

だから安い店を探してまわるし、
日本のデパートでも外商まわしにして
一○%や二○%は負けてくれる。
香港や台湾のデパートなら、親しくなれば一○%引きは普通で、
個人商店なら人を見てびっくりするほど値引きをしてくれる。

事情を知らない日本人はすっかり感激してしまうが、
中国人はそれを当たり前と思っている。

買物も戦争に行くようなものだと思えばよい。
そうしたエネルギーを節約しようと思えば、
最初から知り合いの店に行く。

知り合いであれば、もちろん負けてくれるが、
それで安心していい値で買うとは限らない。
念には念を入れてもう一度値切ってみる。
「いや、もうそれ以上は駄目です。
仕入れ値段を割ります」と言われて矛をおさめるのである。





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2012年10月23日(火)

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