中国人と日本人 邱永漢

「違いの分かる人」へのヒントがあります

第49回
会社は利益を追求するゲマインシャフト その3

日本人は支店長でも、次長でも、日本から派遣されてくる。
二年か三年すると、人事異動で本社に呼び戻されてしまう。
前任者が約束したことで後任者が知らないこともあるし、
前任者のやり方では駄目だから後任者に変わったケースもある。

そういう時は、「私はそういうことは聞かされていない」
「前任者はそういったかもしれないが、私は私のやり方でやる」
「約東違反というけれども、どこにそういう契約書があるか」
と言い争いになる。

華僑は親しくなると、
口約束だけでいちいち書類に残していないことが多いから、
「日本人は嘘つき」ということになってしまうのである。

もう一つ、日本人は「会社人間」であるから、
何ごとも会社の利益を第一に考える。
海外にいても、本社の意向に従って行動するから、
本社の顔色をうかがうばかりで、地元の利益は二の次になる。

中国人から見ると、
日本人ほど自分の勤めている会社に忠誠心のある人間もいないが、
日本人ほど自分で判断を下さない自主性のない人間も珍しい。

もとを言えば、支店長といえども本社の取りつぎ人にすぎず、
本社の意向を無視して事を運ぶ立場にはないから無理もない。
会社が生涯にわたって至れり尽くせりの
面倒をみてくれるということもあるが、
日本人は一つの会社に入ると、
それが偶然、応募して採用された会社であっても、
滅多に中途退職はしない。

中国人のように、入社以来、手をとるようにして教えられ、
ようやく一人前になってから
外国まで技術研修に行かせてもらっても、
帰ってきて他から倍の収入で引き抜きがあると、
平気で転職してしまうのとは天と地ほどの違いがある。

中国人に比べて、日本人のほうがはるかに義理堅いのは、
日本人がお金に動かされやすい商人的な性格ではなくて、
仕事に打ち込む職人的性格の持ち主だからであろう。

また日本人がチームを組んで仕事をやることを好み、
他人を押しのけてでも自分だけよければよいといった
利己的な行動をとることになれていないせいでもあろう。
こうした「会社人間」の集団であることが
経済発展の段階で大きな推進力になった。

日本人はよほどのことでもない限り、
一つの会社に勤めたら、
どこから引き抜きの手が伸びてこようとも
滅多に心を動かされたりしない。
昨日までいた技術者が
今日はもういないといった中国人の社会と違って、
昨日どこまで改良したか、
ちゃんと覚えている人が昨日の続きをやってくれれば、
会社は技術の蓄積もできるし、
弛まざる改良を続けていくこともできる。

そういう職人が集まってできた会社であってみれば、
品質管理がうまくいくのも当然といえば当然であろう。





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2012年9月25日(火)

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